第2章 第二章 未完成な音色
私は最初から逃亡生活は長く続かないと解っていた。
でも、こんな早く見つかるとは思わなかった。
「お前も馬鹿だな。とっとと外国に渡っていれば俺達に見つからなかったものを」
「まぁ、荷物が最低限しかないから…まだ日本にいると思ったんだ」
「はぁー…」
二人にかかれば狭い日本で私を見つけるなんて動作もないことだったんだろうな。
「あの…それで」
「ああ、悪かったな。さっき話した通りだ。詩音は遅かれ早かれ、一時的にプロデューサーの仕事を休む予定だったんだ」
「作詞家に専念させるつもりでもあったんだ」
万理は驚きながらも静かに聞いていた。
けれど、万理が知る必要はない。
「昴!北斗…」
「ここまで来たら、仕方ないだろ?言っておくが緑ママと音晴さんは大体の事情を知っている」
「は?」
そんな素振りはなかった。
なのにどうして知っているのか解らない。
「緑ママは芸能界でも精通している。あの人もな…何より社長がお前を血眼になって探していたんだ」
「え‥」
「あの馬鹿殿は、お前の意思をくみ取っていたが、行方不明のまま放置はできるはずがないだろ…まぁ、俺達には一切何も言わなかったが」
「捻くれてるからね」
二人共言いたい放題だな。
でも、ありえるかもしれない。
「社長といいますと、岡崎社長ですか?」
「ああ、あの馬鹿殿は我が作詞家殿を溺愛しているからな。顔には出さないが…」
「馬鹿殿ですから…愛情表現が歪んでいるんです」
前々から二人は凛太郎とそりが合わなかった。
相性が最悪だった気がするけど、何もそんな風に言わなくても。
「言っておくが、アイツを優しいとか言って慕う様なマゾはお前ぐらいだ」
「マゾすぎるね」
こいつ等、言いたい放題言って。
凛太郎は昔から優しんだよ!
ただ口に出さないだけなんだから!