第1章 第一章 消えた天才作詞家
❁❁❁ 万理side ❁❁❁
詩音を傷つけてしまった。
社長は良かれと思って強引な手段を取ったけど、脅迫何てするはずがない。
けれど、詩音は思った以上に頑なだった。
怒ったというよりも失望したような表情だった。
俺を見た時の目も同じで泣きそうだった。
そんなつもりはないのに。
俺はただ、もう一度音楽をして欲しいと思った。
きっと何か、理不尽な理由でプロデューサーをできなくなったと言うのは解っている。
でも、詳しく聞けないし。
だから俺は社長に相談したのに…
本当に嫌われてしまったかもしれない。
詩音は余程の事が無い限り人を嫌ったりしない優しい性格だった。
完全に嫌われたと思った俺に緑さんは…
「詩音ちゃんは貴方のことが大好きなのよ」
俺の事が好き?
そんなはずは…
「あら、あの子の好意は解りやすいのよ?おっと!というぐらいね‥貴方を嫌うなんてありえないわね」
「どうしてですか?」
「だって貴方でしょ?バン君って」
「えっ…はい」
何で俺の昔のあだ名を知っているんだ?
「あの子がホステスを辞めた時に話してくれたのよ。その数年後にプロデュースする相方が消えて…あの子、ずっと昼夜問わず探し回っていたんだから」
「詩音が…」
「でも、見つからないのは探して欲しくないからだと思ってのでしょうね。だから探すのを辞めたの」
悲しそうに眉を下げる緑さんに罪悪感を感じる。
「でも、あの子ったら馬鹿だから。いなくなった相方さんの分もも言う一人の子を守ってやらなきゃダメだって言っていたの。約束だって言って」
――俺との約束。
覚えてくれたんだ。
「その後、百って子を紹介されてね…あの子は自分のすべてを注いであの二人をプロデュースしたわ」
「そうか…詩音ちゃんはそういう子だったね」
どれだけ苦労したか解らない。
弱音を吐くことも、泣き言をいう事も出来ずに。
今更ながら後悔する。
俺はどれだけの負担を強いていたんだろ。
なのに、嬉しいと思う俺は酷い奴だと思った。
俺との約束を律儀に守ってくれたんだと思うと嬉しくて仕方ない。