第1章 第一章 消えた天才作詞家
研修期間はヘルプとして入り、一人前になっても指名がつかなければヘルプのままだった。
研修期間にどれだけ自分を売り込めるか勝負になって来る。
とは言え、私は年齢的にも若くないの不利だったが、ここは古巣でもある。
「大変です緑ママ!」
「どうしたの?」
「奥のテーブル席のお客様を桃華さんが怒らせてしまって!」
「ええ…高山様はお得意様なのよ」
ヘルプを終えた私はホールの手伝いをしていると何やらトラブルのようだった。
「困ったわね、他の子達は指名のお客様だし」
「とは言え、高山様な少々ご気性が…」
奥で怒鳴り声とグラスが割れる声が聞こえる。
他のヘルプに入っているホステスも怯えて真面な接客ができないでいる。
「チーフ、マネージャー。私が行きます」
「ええ、詩音!お前はまだ研修の身だろう?」
「いや、頼めるか?」
「マネージャー!」
チーフがマネージャーを止めようとするも、今動けるのは私ぐらいしかいない。
「あの方をこれ以上怒らせれば解っているな」
「その代わり、その場を収めることが出来たら…いいですね?」
マネージャーの言いたいことは解っている。
私は出戻りという立場上、一部ではよく思われていないのだから。
ここで売り込んで失敗すれば、最悪の場合クビだろう。
「もし場を収められたら、研修は終了だ」
「お任せを。ついでに特別手当よろしく」
「解ったから早く行け」
交渉成立となり、私は気合を入れてテーブル席に向かった。
「貴様等!俺を馬鹿にするのも大概にしろ…こんな店!」
大暴れをして立ち上がるお客様に私は近づく。
「お久しぶりでございます高山様。お待たせしました、#NAME5#でございます」
「お前‥」
「ご無沙汰しております。相変わらずお元気そうで安堵いたしました。ですが、あまり大声をお出しになると血圧が上がってしまいますわ」
ゆっくりと静かに話す。
トーンを落として柔らかく話しながらソファーに座るように促す。
「あまりお体を酷使したら紗耶香ちゃんが心配しますよ」
「娘のことを覚えていたのか」
「勿論です。高山様は私にとって特別なお客様ですから」
出来るだけ体を近づけ、媚びるのではなく接する。
そして止めは”特別なお客様”で押す。