第1章 第一章 消えた天才作詞家
「くぅ!!!」
怒っていた高山様は涙を流す。
元から怒りっぽさはあれど、涙脆い一面もあるのだから。
「お前だけだ。俺の気持ちを解ってくれるのは」
「そんなことはありませんよ。高山様を誰よりも見ていらっしゃる奥様がいらっしゃるではありませんか?もうすぐ七回忌ですよね?」
「妻の命日も覚えてくれていたのか…そうなんだ。だから今日はおの店で飲もうかと」
実は高山様の奥様は、この店で働いていたホステスだった。
二人はホステスと客の立場でありながら恋に落ちて結婚したのは当時では噂になっていた。
「紗耶香ちゃん、都姐さんに似て来て心配なんじゃありませんか?」
「そうなんだよ!最近はますます似て来て…悪い虫がつかないか心配なんだよ!」
「都姐さんは六本木のクラブからスカウトされる程の美貌、知性を持った方したから」
「当たり前よ!都は俺の女神だ!」
お客様のプライベートに踏み込むのはあまり良くないが、家族を賛美することは問題ではない。
むしろ、お客様との距離を縮めることができる。
「なら、その女神様が命がけて守った娘さんを守る為にも無理をしてはいけませんわ」
「そうだったな…俺も少しカッとなり過ぎた。後で緑ママに詫びよう」
「本当に潔くて男らしいですね」
「惚れ直すか?」
ニヤリと笑う高山様には何も言わずほほ笑んだ。
言葉は必要ないのだから。
「、お前の話も聞かせてくれ」
「ええ、喜んで」
なんとか高山様の怒りは収まった。
「ふぅー…」
一息ついて私は持ち場に戻ったのだが――。
拍手の音が聞こえた。
「でかした詩音!!」
「流石だよ詩音ちゃん!」
緑ママにマネージャーやチーフ達が労ってくれた。
微かに拍手の音が聞こえた、内心で笑みを浮かべる。
私を認めていなかった若手のホステスも渋々拍手をしている感じだったが掴みはばっちりだったはずだったが…
「お見事」
「ありがと…って、何にしているんですか」
何故か隣のテーブルでお酒を飲んでいる二人組。
音晴さんと万理がいた。