第1章 第一章 消えた天才作詞家
就職先も決まって今日はなんていい日なんだと思っていたのだが、世の中そう甘くなかった。
「は?就職先が決まった!」
「そうそう、ばっちり」
「また勝手な!」
留守番中に出たことを怒る万理だったけど、隣にいる音晴さんが抑え込む。
「まぁ、まぁ万理君。大人しくしていたんだし…それで、どこに就職したんだい?ピアノ教室かな?それともジャズ喫かな?」
音楽関係だと決めつけるのは止めて欲しいんだけど。
それしか能がないと思われている。
「ホステス」
「「えええええ!!」」
最初こそはニコニコ笑っていたけど、直ぐに声を上げた。
「ホステスって…夜の店‥」
「酒の相手をして‥その」
「そうそう、エロを嗜む店。生憎一発一万円とローションとお風呂は別だけど」
「今すぐ断りなさい!」
「お水なんてダメ!何考えているんだ!」
音晴さんと万理は阿吽の呼吸を合わせて反対した。
「無理。もう受けたし」
「今から電話を」
「一度を受けた仕事を断るなんて失礼でしょ?芸能界ではご法度よ」
「「ぐっ!」」
芸能事務所の社長と事務員である二人には効果的な言葉だった。
「でっ‥でも、いくら何でもお水なんて」
「そうだよ。他にもあるよ?プロデューサーとか、作曲家とか…」
結局今まで同じじゃないの!
「なんだったらうちに来てくれても」
「給料が安そう」
「うっ!」
「詩音!社長、そんなことないですよ!」
弱小事務所で苦労して来たから解る。
小鳥遊芸能事務所も色々厳しいからこそ、給料は良いとは言えない。
まぁ、毟り取るような真似はしないけど。
この二人の事だから、雑用を押し付けてくるだろうし。
事務員として雇いながら、やれ作曲をしろ。
やれ作詞をしてついでに所属タレントのプロデュースもしろとか言いそう。
だからこそ外で働いて防ぐ!
「でも‥大丈夫なの?」
「ああ、お水は経験済みだから問題ないわ」
「は?」
だって十年前にも働いていたし問題ない。
「今までの経験を生かして、私は立派な夜蝶になってみせるわ!」
「ならなくていいから!繋ぎのバイトだろ!」
「何事も全力投球!」
こうして私はホステスとして働くことになった。