第1章 第一章 消えた天才作詞家
❁❁❁ 万理side ❁❁❁
朝起きたらもぬけの殻だった。
何処を探しても詩音の姿は無かった。
「えっ…何処に!」
トイレや風呂場、洗濯籠やクローゼットの中を探したけど、何処にもいない。
「まさか、出て行ったんじゃ!」
行く当てもないのに、住む場所だってないはずだ。
「とにかく探さないと!」
急いで着替えて上着を羽織って外に出る。
シーツに触れた時、まだ微かに温かかったから時間は過ぎてない。
「あの馬鹿、本当に自由過ぎるだろ」
昔から放浪癖だったけど、必ず帰って来たから心配はしても不安ではなかった。
でも今は?
俺と詩音の間にある関係は薄いモノだった。
ここに帰って来る必要なんてない。
渋々一晩泊まっただけだ。
でも、行く宛だってないのに!
「何処に行ったんだ…」
メディアには極力出ていないと言っても、それなりに知名度がある詩音を知っている人は多い。
失踪した作詞家がマスコミに抜かれたらどうなるか。
いや、それ以上に…
俺が心配でたまらないんだ。
「千も詩音もこんな気持ちだったのか…」
改めて思い知った。
俺が五年前にした決断は大切な人をどれほど傷つけたのか。
どれだけ苦しませてしまったのか。
同じ立場になって気づくなんて馬鹿だ。
「俺って馬鹿だ」
「今更気づいたの?馬鹿じゃないの」
「は?」
落ち込む俺に声に呆れた声で突っ込むのは…
「つーか、道のど真ん中で恥ずかしいんだけど」
「おまっ!」
何故か探しているはずの詩音がいた。
「こんな朝早くから何やってんの?」
「詩音こそなにやってんの?」
「えー、コンビニ行って、その後モーニングでパンバイキング。はい、お土産」
「お前は!」
人がどれだけ心配していたと思っているんだ!
なのに呑気にパンバイキングなんて!
「何?どうしたの?そんなにお腹空ていたの?」
「後で覚えていろよ」
帰ったらお説教だ。
ついでにお昼はのり弁にしてやろう。
ささやかな俺からの仕返しだ。