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空谷の跫音〈呪術廻戦/七海建人〉

第2章 出会い



「葵様、いったいどこに……!?」

「外へ出かけていただけ」

「お供もつけずには困ります!」

「自分の身くらい自分で守れる」

「万が一にも葵様の身になにかあれば……」


 家に帰った瞬間、これだ。

 雄とまた明日会う約束をし、家に戻った。
 家の中に足を踏み入れた瞬間、侍女たちが駆け寄ってきて口々に言葉を発する。それを適当に受け流しながら、葵は思わずため息をこぼした。


「部屋に戻る。だれも入れるな。夕餉の時間になったら呼べ」


 自室まで侍女が入ってくることはない。

 刺々しく言い放ち、葵は部屋の襖を開けた。
 そこには静かな、葵が唯一気を許せる空間が広がっていた。

 葵はごろん、と畳に横になった。

 侍女たちの前でこんなことをしたら、問答無用で咎められるが、今ここにだれもいない。なにをしても、だれにもなにも言われない。
 大の字になり、葵はぐっと全身を伸ばす。

 そして、さっき出会った男の子のことを考えた。

 恐らくあの少年、灰原雄は呪霊が見えるようになった。
 妹は元々視える側の人間だったようだし、葵が呪霊を祓ったことがきっかけになったのだろう。

 本当は呪霊なんて、呪いなんて見えない方がいい。

 人間の醜い部分など、見たい奴はいない。


 あぁ、もしかすると


 葵は目を閉じた。


 あたしは今日、一人の少年の道を狂わせてしまったかもしれない。


 葵と出会わなければ呪いと関わらず過ごせたかもしれない少年。葵に出会ったことで呪いと共に歩むことになった少年。

 少しだけ、葵の心の中に罪悪感が顔を出した。



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