第3章 東京都立呪術高等専門学校
七海は死んだ目でカスクートを頬張っていた。
あれだけ親睦会をめんどくさがっていた葵だったが、灰原のパン屋に釣られてまんまと意見を乗り換えた。パンが好きという意外な共通点を見つけられたことは驚きだったが、それでも騒がしいのが好みではない七海にはめんどくさいの極みだった。
「建人ってカスクート好きなの?」
三軒目のパン屋のテラスで休憩していたとき、不意に葵が口を開いた。三つ目のカスクートを口に運んでいた七海はきっちり咀嚼してから頷いた。
「はい。パンの中では一番です。……そういうあなたは」
七海はガサガサと袋を漁る葵を横目で見た。
「焼きそばパンが好きなんですか?」
「正解」
「それで三つ目でしょう? 飽きないんですか?」
「建人だってそのカスクートで三つ目じゃん」
「カスクートは店によって具が違うので」
「葵! 七海! ここのオレンジジュースすごいおいしいよ!」
飲み物を買いに行っていた灰原が三つ紙コップを持って来た。
もう味見をしたのか、灰原の唇の端にはオレンジジュースがちょっとついている。
差し出された紙コップを受け取り、葵は一口それを飲んだ。甘みと酸味がいい具合に混ざり合い、たしかに美味しい。
「焼きそばパンだってお店によってソースの味が違うから」
「ソース?」
「ソース」
ソースの味の違いなんてわかるものなのだろうか。
真顔で冗談か本気かわからないことを言い放った葵を見ながら七海もオレンジジュースを傾けた。