第2章 出会い
「雄!」
葵は声を張った。
灰原は驚いたように足を止め、葵を振り返る。
重たい着物をぐっと持ち上げ、葵はつかつかと灰原の元まで向かう。そして手を出し、真横に引いた。
バヂャッ
次の瞬間、耳を塞ぎたくなるような汚い音と共に灰原の肩に乗っていた呪霊が吹き飛んだ。
灰原はなにが起こったのかわからないように目を瞬かせている。妹は兄に取り憑いていた化け物がいなくなったのを見て、そろそろと母親から体を離した。
「おにいちゃ!!」
ころころっと転がるように妹は走り出し、灰原にぎゅむっと抱きついた。
「結衣!」
「うわぁっ!」
母親の声と灰原の叫びが同時に響く。
突然突進された灰原はバランスを崩し、どさっと地面に尻もちをつく。母親はパタパタと走り、二人の元に駆けつける。
「結衣、雄、怪我はない?」
母親は妹を灰原から引き離し、抱き抱えた。
砂を払いながら立ち上がった灰原はついさっき、呪霊が消えていったほうを見た。
「……今のって…………」
「雄、その子はお友だち?」
視えるようになったのか。
確認するように葵に向けられた目線は母親の声で途切れた。名前を呼ばれ、灰原は母親を見た。
「うん! さっきぼくから話しかけたんだ!」
「はじめまして。冷泉葵です」
「あら、はじめまして葵ちゃん。小さいのにしっかりしてるのね」
母親は灰原と同じ優しい目をゆるりと細めた。
居心地悪そうに葵はその場で身じろぎする。
こんなに優しい目を向けられたのは初めてで、どう反応すればいいのかわからなかったのだ。
「あの、あたし、そろそろ家に帰ります」
「えっ!! もう!? 遊ぼうよ!」
「雄、わがまま言わないの」
「でもでも……!」
「……また明日、ここに来るよ」
気づくと葵はそう口走っていた。
なぜかはよくわからない。
ただ、冷泉家の次期当主である葵ではなく、一人の葵として見てくれたのが嬉しかったせいかもしれない。
また、彼らと話したいと思った。