第2章 出会い
「こんなところでなにしてるの? ひとり?」
大きな目を好奇心と興味でキラキラと光らせながら少年は葵を見た。
葵はしばらく黙っていたが、答えるまでこの少年がいなくなることはないと気づいた。そして、渋々口を開けた。
「べつになにも。ただ座ってみただけ。あなたは?」
幼い風貌に似合わず、大人びた口調を不思議だと思ったのか、少年は目をぱちくりさせた。
「ぼくは灰原雄! 妹と遊びに来たんだ! 君の名前はなんていうの?」
「……冷泉葵」
「ねぇ、葵。ひとりならぼくたちといっしょに遊ぼうよ! 妹と二人だけじゃつまらないんだ」
灰原雄と名乗った少年は、ちらりと公園の出入口のほうを盗み見る。つられてそちらに目線を向けると、そこには女性と、その女性と手を繋ぐ小さな女の子がいた。
目の形が灰原と同じだ。
けれど、その女の子はなにか恐ろしいものでも見るかのように灰原のほうを見ている。
その目は恐怖で塗りつぶされていた。
「今日一日ずっとあぁなんだ。なにが怖いんだろう」
葵は灰原に目を移し、心の中で「あぁ」と納得した。
妹の様子を案じて眉を下げる少年、灰原の肩に一匹の呪霊が乗っていたのだ。
鋭い歯を剥き出しにして、妹を睨みつけて唸っている。きっと妹はこの呪霊を怖がっている。
と、灰原は不意に頭を手で押さえた。
「いてて……」
「どうしたの?」
ぎゅっ、と目をつむり、痛みに耐えるように灰原は全身に力を込めていた。
葵が聞くと、彼は困ったような顔で葵を見下ろす。
「最近、頭が痛いんだ。体も重くて……。お母さんは風邪だって言うんだけど、風邪じゃない感じなんだよ」
それはきっと、灰原の肩に乗っている呪霊のせいだ。
灰原の母親は怯える妹をなだめているが、妹はついに泣き出してしまった。灰原はそれを見て、頭の痛みなど無視をして妹の方へ駆け出す。しかし、それは逆効果だ。
妹はさらに激しく泣き出してしまう。
母親の顔には困りと疲れが滲んでいた。
葵はブランコからおりた。