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空谷の跫音〈呪術廻戦/七海建人〉

第2章 出会い



 きっかけは些細なことだった。
 ただ逃げ出したくなったのだ。
 重たい着物を着せられて、一人ではなにもできない赤ん坊のように扱われて、なにかある度に名前を呼ばれる。

 そんな窮屈な世界から、逃げ出したくなった。

 古くから呪術師として名を馳せる冷泉家の次期当主である葵。しかしまだ彼女は七歳。
 背負わされる重圧は七歳にとっては重たすぎるものだった。

 肩で美しく切り揃えられた青髪が風に乗ってなびく。

 足が動くままに任せていたら、気づくと公園にいた。
 そして、真っ先に目に飛び込んできたブランコに乗った。

 外で普通の子どものように遊ぶことを「品がない」と咎められ、今までブランコに触れたことすら葵はなかった。

 見様見真似で足を前後に動かしてブランコを揺らす。

 初めて乗ってみて思った。
 なにが楽しいのだろう、と。

 そして次にこう思った。
 ブランコで遊ぶ子どもはだいたい、友人と一緒だった。

 最後に結論を出した。
 家に帰ろう。

 一人はなにも楽しくなかった。
 本で読むような世界を期待していたのだが、やはりあれには友人が必要なのだろう。そういえば、どの本にも主人公が一人で遊ぶ描写はなかった。

 きっと帰れば怒られる。

 だがまぁ、外はつまらないことがわかった。
 もう二度と、自分からあの家を抜け出すことはないだろう。

 葵は最後に大きく漕ぎ、ブランコからおりようとした。


「ねぇ、君!」


 しかしそれは幼い声に止められた。

 俯いていた顔を上げて、声の主を見る。
 優しそうな目をした男の子だった。



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