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空谷の跫音〈呪術廻戦/七海建人〉

第3章 東京都立呪術高等専門学校



 七海は唐突な名前呼びに面食らったように目を瞬かせたが、やがて小さく頷いた。


「どうぞ。よろしくお願いします、冷泉さん」

「あぁ、あたしのことは名前で呼んで。苗字は嫌いなんだよね」


 葵を縛りつけている元凶は苗字だ。
 冷泉という苗字がなければ、葵はあんな陰気臭い家、すぐに飛び出してしまうだろう。

 七海は一瞬面倒くさそうな顔をしてから、ため息をついた。


「では……葵。これでいいですか?」

「うん。ありがとう」


 葵はにこりと笑うと、真ん中に用意されていた席に座った。
 その隣に同じように灰原も腰掛ける。


「さて、改めて」


 教壇に立った佐伯はたった三人の一年生を見渡して、にっこりと華やかな笑顔を見せた。


「入学おめでとう、三人とも。これから君たちは呪術師として様々な任務にあたり、勉学に励み、青春を謳歌することだろう!」


 だが、と佐伯の笑顔が少し曇る。


「この世界は綺麗事だけではすまないときもある。知っての通り、呪霊とは人から生まれた呪いだ。醜悪で、ひどく残忍だ」


 きっとこの先、それを突きつけられるだろう。
 心が折れることだってあるかもしれない。
 
 悲惨な現場を見るかもしれない。もしかしたら、自分たちがそうなっているかもしれない。


「端的に言おう。この世界は地獄だ。だが君たちはその地獄に自ら進んでやってきた」


 佐伯はその口元に歪んだ笑みを浮かべた。


「呪霊に殺される地獄か、血反吐を吐いてでも呪霊を祓う地獄か。――好きな地獄を選びたまえ」




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