第3章 東京都立呪術高等専門学校
「葵、入学早々に先輩に喧嘩売るなんて……」
佐伯について行きながら高専の廊下を歩く。
どことなく不機嫌そうな友人に灰原はひそひそと囁いた。
「売られた喧嘩を買っただけ。先にふっかけてきたのはあっちだし」
「で、でも……」
「葵、悟からの八つ当たりがひどくなったらいつでも言うんだよ?」
「はい。ありがとうございます」
五条家の息子からの喧嘩を買ったことをまったく後悔していない葵は、佐伯の言葉に頷く。
しかし、その表情は「絶対に負かしてやる」という意思に満ちていた。前を歩く佐伯には見えていないようだったが、隣の灰原は一人でハラハラと慌てていた。
「――ここが一年の教室だ」
古びた引き戸を佐伯は開けた。
ギギギッ、と耳を塞ぎたくなるような音がして戸が開く。
中には三つの机が並べて置いてあり、一番奥の机にはすでに人がいた。
「建人、もう二人の新入生を連れてきたよ」
佐伯の呼びかけに、本を読んでいた青年はすっと顔を上げた。
真っ先に目につくのは、さらりと揺れる金髪。
切れ長の目は薄い青色。
色白の肌、均等に設置された顔のパーツ。
薄い唇を興味なさげに結んだ彼は、本を閉じた。
「はじめまして! 僕は灰原雄! ねね、その髪って地毛?」
「……七海建人です。えぇ、地毛ですが、なにか?」
「じゃあ七海って呼ぶね! 綺麗な髪だなぁって思って! ほんとに同級生? とっても大人っぽい!」
さっそく話しかけに行ったコミュ力おばけの灰原を見ながら、葵はカバンを背負い直してそれに近づいた。
「はじめまして。あたしは冷泉葵。……建人って呼んでも?」