第3章 東京都立呪術高等専門学校
高専内のセキュリティーや諸々の説明をされた葵たちは再び教室に戻っていた。
すぐに三人の間に沈黙が流れる。
葵と灰原はいいが、七海とは出会ってまだ数十分しか経っていない。もともと喋ることがそれほど得意でもない葵は、黙り込んだまま自分の席に引っかかっている鞄を手に取った。
佐伯から説明が終わったらあとは好きに過ごしていいと言われていた。明日から始まる授業に備えて休むもよし。どこか出かけるもよし。出かけるために外出届けは書かないといけないが。
葵は迷わず前者を選んだ。
さっさと寮に戻って部屋の整理をして寝る。
実家から東京に出てくるだけでだいぶ疲れたのだ。早く休むに限る。
「それじゃああたしはこれで――」
「えっ! みんなで出かけないの!?」
「「……は?」」
葵と全く同じことを考えていた七海は、同じように鞄を取ろうとした格好のまま灰原の言葉に固まった。
初めて葵と七海の声がハモる。
そんな二人に、灰原は純真無垢な目を向けた。
「せっかくならみんなでどこか行こうよ! 親睦会的なやつ!」
七海のことも知りたいしさ! と灰原は七海に笑いかける。
それに顔をしかめながら七海は葵を見た。その目にはなんとかしろ、という意志を感じる。
葵はため息をついた。
「雄、悪いけど、あたしは疲れてるんだ。明日から早いし、その親睦会とかはまた後日でいいだろう?」
「えぇええ!! 僕は今日がいい! 明日任務が入ったらどうするの? お互いのこと知らないままお互いに背中なんて預けられないよ!」
それらしいことを並べてはいるが、灰原はただ出かけたいだけだ。東京観光をしたいだけだ。
七海は黙ってる二人のやり取りを見守っている。
「じゃあ葵。……前言ってたパン屋さんでなにか奢ってあげるよ」
ふっ、と悪い笑みを浮かべた灰原が言った。