第53章 恐怖を讃えるコラール【渋谷事変】
『ガキ共、まずはオマエらだ。オレに何か話があるのだろう。指一本分くらいは聞いてやる。言ってみろ』
震えも冷や汗も止まらない。喋る許可をもらっているはずなのに躊躇われる。
だが、口を開かなかったら殺されるだろう。カタカタと歯を鳴らしながら、ひたすら頭を下げた。
「……下に、額に縫い目のある袈裟の男がいます。そいつを、殺してください」
「夏油さまを、解放してください」
菜々子の言葉に美々子が続ける。
「あ、あたしたちは、もう一本の指の在り処を知っています。そいつを殺してくれれば それをお教えします。だから……どうか……」
浅く呼吸を繰り返していると、宿儺が小さくため息を吐いた。
『面を上げろ』
言われた通り顔を上げると、宿儺がフッと微笑を浮かべる――次の瞬間には、美々子が消し飛び、飛び散った血が菜々子の顔を濡らした。
「……え……?」
目の前の光景が信じられず、菜々子は固まる。そして、一拍遅れて理解し、肉片となった片割れに悲鳴を上げた。
「いやぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁ――――ッ‼」
べちゃべちゃと血に濡れた床を撫で、肉片をかき集める。
「美々子! 美々子! 美々子――ッ‼」
嘘だ。嘘だ。嘘だ。
頭の中でどれだけ否定しても、目の前の光景が現実を見せつけてくる。
『たかだか指の一、二本で俺に指図できると思ったか? 不愉快だ』
眉を寄せて顔を顰める宿儺に、恐怖と怒りで身体と脳が燃えるように熱を持った。
「すくっ、なあぁッ! 死ね‼」
スマホのカメラレンズを宿儺に向ける。だが その瞬間、菜々子の命は潰えた。
* * *