第56章 伸ばした手に掴むデテルミナート【渋谷事変】
「ベラベラとよく喋るな。遺言か?」
――「絶対に死なないで――頼んだよ、虎杖君」
信頼してこの場を任せてくれた、灰原の言葉が耳の奥で蘇った。
――「七海は必ず助ける」
会って言葉を交わした時間は短いが、きっと七海なら、怒りで我を忘れるようなヘマはしないだろう。
――証明しろ。
――「悠仁。君はもう――……」
――俺は……。
――「……呪術師なんだ」
――呪術師だ。
星也の言葉に被せるように、自分の胸のうちで言い聞かせる。
拳に呪力を滾らせ、深く息を吐き、精神を研ぎ澄ませた。同時に真人も呪力を滾らせている。
自分に真人の術式は効かない。真人本人が形を変えてくれれば、的が大きくなって攻撃も通りやすくなるが、それは本人も分かっていることだろう。
それに、自分の攻撃は通るが、致命的な部位でなければ意味がない。真人自身も警戒しているはず。
真人は自分の形を変えるとき、直前に呪力のタメがある。それを見逃すな。
だが、真人は形を変えることなく腰を落とし、伸ばした手の先を自分に向けてきた。
変形させず、呪力で強化した素体で向かってくるつもりなのか?
だったら、それは自分の土俵だ。
虎杖は膝、股関節、肩と抜き、予備動作を消して、倒れるより滑らかに真人の足元へ移動した。姿勢は低く、力の流れを殺さずに旋(めぐ)らせ、地に手をつき、両足で真人の頭を捉える。
――【卍蹴り】!
衝撃にのけ反る真人へ素早く体勢を起こし、虎杖は腹に蹴りを放った――そのとき、呪力のタメを感じ、半身をズラす。
真人へ視線を向ければ、左腕が棘のついた鞭のように変形しており、虎杖のいた場所は深く細く抉れていた。
『いいね、続けよう――ラウンド2だ』
顔面を腫らしながらも愉しそうに、真人が舌なめずりする。それを虎杖は眉を寄せて睨みつけた。
* * *