第54章 残虐なるヴィルトゥオーゾ【渋谷事変】
「地震⁉」
目を丸くして周囲を見渡す男の向こう側で、昼間と錯覚しそうなほど眩しい炎が燃えている。ここまで熱気が届きそうだ。
「ははっ! 誰だよ。派手だなぁ……あ?」
異様な気配を感じたのか、男が怪訝な表情をした。伏黒のなけなしの呪力を振り絞るその気配が変化したのを感じたのだろう。
詞織を撫でながら、伏黒は「続きだ」と口を開く。
「要は、式神は調伏しないと使えないが、“調伏するためなら”いつでも呼び出せるんだ」
歴代【十種影法術師】の中に、コイツを調伏できたヤツは一人もいない……。
前に、五条から聞いた。五条家と禪院家の仲が悪い理由。
江戸時代辺りまで遡るほど大昔に、この二家の当主同士が御前試合で本気で殺(や)り合い、双方 命を落とした。
五条家の当主は五条と同じ【六眼】持ちの【無下限呪術師】、禪院家の当主は伏黒と同じ【十種影法術師】。
だからといって、五条に勝てる術師になれるわけがない。
だが きっと、当時の禪院家当主も こういう使い方をしたのだろう。
譲れないもの守るために――……。
伏黒の意図に気づいたのか。男が「待て!」と刀を抜こうとする。だが、それより早く伏黒は両腕を伸ばした。