第53章 恐怖を讃えるコラール【渋谷事変】
『そうか。知られているものと思っていたが……そもそも呪霊。知らぬはずだ』
目の前の炎、その火力は自分が操るものよりも数段上……いや、こんな表現では足りない。もはや別次元。格が違いすぎる。
『心配せずとも、術式の開示など狡(こす)い真似はせん。構えろ』
宿儺が両手に炎を集め始めた。それに倣い、漏瑚も手に炎を溜める。
集中しろ。一瞬でも気を抜けば死ぬ。
おそらく、これが最後だ。持てる呪力を最大に込めろ。
――『俺に一撃でも入れられたら、オマエたち呪霊の“下”についてやる』
そうだ。倒せずともいい。自分の為すべきことは一つ。一撃を見舞えればそれでいい。
そう振り切れたことで、漏瑚は幾分か冷静さを取り戻せた。
周りで、炎に煽られたビルがバキバキと悲鳴を上げる。その中で、宿儺が合わせた両手を開き、炎の矢を形成した。
――すまない。花御、陀艮……。
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『……すまない。花御、陀艮』
真っ白な空間で、漏瑚は死した仲間に謝罪を口にした。
自分たち呪霊が人として存在できる世界。それを果たせぬまま、自分もここで終わる。
『まだ、真人がいますよ』
『ぶぅー』
“人”が恐れ、忌む“死”。だが、その向こうにもまた“人”がいる。
『“人”にとって“死”は鏡。真人はその鏡そのものです。真人はまだまだ強くなる。だから あなたは、彼を頭に据えたのでしょう?』
誰にも言ったことのない漏瑚の本心。それを花御は見抜いていたのか。
漏瑚は返事をすることなく黙り込む。
人が大地を、森を、海を恐れたとき、再び自分たちは生まれる。だが、そのときの自分たちは自分たちではない。
それでも――……。