第53章 恐怖を讃えるコラール【渋谷事変】
圧倒的な苛烈さ。
夏油は自分の強さを、甘く見積もって【宿儺の指】八、九本分と言った。
今の宿儺は指を十五本 取り込んでいる。
力の差など分かっていた。分かっていたこと……だが、ここまで手も足も出ないとは思わなかった。完全に遊ばれている。
――【極ノ番『隕』】
ビルだけでなく近くにあった自動車や看板などを吸い込み、巨大化に巨大化を重ね、隕石レベルの質量を纏った火球を生み出した。
逃げる術師など見てはいない。狙うは宿儺。巻き込まれる一般人や術師などどうでもいい。
巨大質量を纏う炎が街を呑み込み、燃えた地面が溶岩のように煮えたぎった。その中で、漏瑚は荒く呼吸を繰り返す。
『宿儺といえど、無傷では済むまい』
『当たればな』
ビクッと肩が跳ねた。振り返れば、宿儺は余裕の笑みを浮かべ、胡座をかいて座っている。
『なぜ領域を使わない?』
『領域の押し合いで勝てないことは分かっている』
渋い表情で言えば、宿儺はククッと喉を鳴らして笑った。
『五条 悟がそうだったからか? 負け犬根性 極まれりだな』
図星をさされて奥歯を噛む漏瑚の前で、『だが』と宿儺が立ち上がる。
『せっかく興が乗ってきたところだ。オマエの得意で戦(や)ってやろう』
――【『⬛︎』、『開(フーガ)』】
『それは……炎か……?』
宿儺の手が炎を纏う。
なぜだ。宿儺の術式は切断や斬撃ではないのか?
渋谷のトイレでも斬撃を浴びせられ、双子の少女を殺し、先ほどのビルの戦いでも腕を一度 腕を斬り落とされている。