第53章 恐怖を讃えるコラール【渋谷事変】
『また会える日を心待ちにしているぞ。我々こそ真の人間だ』
『――なんだ、オマエ。人間になりたかったのか』
自分たちしかいないはずの空間に、なぜか宿儺が現れた。
違う。そうではない。
そう言おうとしたが、『あー、分かっている』と宿儺は手を上げて漏瑚を遮る。
『人間そのものではなく、人間の位地。そんな話だろう?』
分かってなお くだらんな、と宿儺は吐き捨てる。
『群れとしての人間、群れとしての呪い。寄り合いで自らの価値を計るから、皆 弱く矮小になっていく』
オマエは焼き尽くすべきだった。打算も計画もなく、手当たり次第に。五条に行き着くまで、未来も種もかなぐり捨てて。
『理想を掴み取る“飢え”。オマエにはそれが足りていなかった』
『そう……かもしれんな……』
宿儺に言われ、「確かにその通りだ」と納得している自分がいた。未来も種もかなぐり捨てて……そうしていれば、まだ違う未来があったのだろうか。
『だが まぁ、多少は楽しめたぞ』
その言葉に、漏瑚は顔を上げる。
『人間、術師、呪霊――千年前 戦(や)った中ではマシな方だった。誇れ――オマエは強い』
【呪いの王】――そう呼ばれる宿儺からの賛辞。
気がつけば、漏瑚の単眼から涙が溢れる。
『……なんだ、これは……』
『さぁな。俺はそれを知らん』
溢れる涙に戸惑う漏瑚へ、宿儺は嘲笑を向けた。