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十六夜の月【アイナナ短編集】

第2章 二夜目.ファンには夢を、君には愛を




ひとしきり笑った後で、エリは目尻に溜まった涙を拭い告げる。


『はぁ、笑った。
ねぇ大和。他は?何か私に伝えておきたいこととか、打ち明けておきたいことはない?』

「うーん。そうだなあ…
じゃあ逆に、質問してもいい?」

『勿論いいよ』


大和はエリの手を取り、指をきゅっと絡めた。


「エリは、俺のこと好き?」

『大好きだよ』

「俺がアイドルやめても?」

『だから、アイドルだから付き合ってるわけじゃないんだって』

「はは、分かってる。ただの確認だって。じゃあもし…」


大和の指に、力が加わる。さらに、これまで淀みなく話していたのに不自然な間が流れた。エリは小さく首を傾げた。


「俺が、もし…千葉志津雄の、隠し子だったら…どう思う?」


大和の目が、左と右に忙しく動いた。対するエリは、きょとっとただ目を丸くする。


『え…っと。
あぁ大和って、千葉志津雄の隠し子なんだ。って思う!』


今度は大和が、目を丸くする番であった。しばらく固まったままエリを見つめる大和であったが、やがて弾けるように笑い出す。


「っはは!なんだよ、それ!人が無けなしの勇気振り絞って告白してんのに!はは……まぁでも、そうだよな。そのくらいにしか思わない奴だって、普通にいるんだよな」

『大和のお父さんがどんな人でも、今の大和が何か変わるわけじゃないから。まぁでも、この大和が出来上がった要因が千葉さんにあるんだったら、私はありがとうって思うよ』


エリの言葉を最後まで聞いた大和は、清々しい表情で天井に顔を向けた。


「やっぱ、あんたは最高の彼女だわ。ありがとうな」


エリには、これまで大和がどのような重圧に耐えて来たのか想像も付かない。だが今ようやく、ほんの少しだけ肩の荷物を降ろすことが出来たのだろうか?と感じた。

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