第2章 二夜目.ファンには夢を、君には愛を
—10小節目—
SECRET NIGHT
エリは、三月の笑顔に心撃ち抜かれた。それはもう、今まで緑一辺倒だったペンライトの色を変えてしまうほどに。しかし、大和の黒い笑顔でそれは阻止されたわけであるが。
ステージ上でのその笑顔を思い出し、エリは身震いした。しかし、あの様子では浮気容疑は解けたのであろう。きっと三月が、何があったのかを話してくれたのだと思う。
それにしても、アンコール前のMCで語られた大和の言葉。あれは、自分に向けられたものなのだろうか。少しは自惚れても良いのだろうか。あの言葉を、思い出す度に心臓がキュンキュンとなってしまう。
そんな時。家のインターホンが鳴った。
反射的に駆け出して、玄関に向かう。ドアスコープを覗くこともせず扉を開け、そしてそれと同時に目の前の人物に抱き着いた。
「っと…!はは。今、相手が誰かも確かめないで飛び付いたろ。俺じゃなかったらどうするんですかー?」
『確かめなくても、分かるよ。大和のことなら。来てくれて、ありがとう』
大和は玄関扉を閉めてから、エリの身体をぎゅっと抱き締める。それから頭に右手を乗せて、さらに強く抱き締めた。
「さっき、言ったでしょ。後でって。どうしてもエリに、伝えたいことが…あってさ」
『うん。なに?聞かせて』
「えっと…。昨日は、ごめんな。酷いこと言っちまった。もうめちゃくちゃ反省してるんで、許してください」
『うん、それから?』
「それから…、えーっと」
エリは、大和の背中に回した腕に力を込める。耳に当たる胸からは、バクバクと凄い音がしたけれど。目を閉じ、気付いてないふりをする。
「好きだよ。エリ」