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十六夜の月【アイナナ短編集】

第2章 二夜目.ファンには夢を、君には愛を




—8小節目—
ファンには夢を、君には愛を


ステージに立った大和は、いつもの席にエリの姿を見つけてほっと息を吐いた。
いつもの場所。いつもの笑顔。ペンライトの色も、いつもと同じ緑色…ではなかった。今まで両手共に緑だったそれは、片方がオレンジに染まっていたのだ。

それに気付いた三月が、エリに向かって投げキッスのファンサービス。相談に乗ってもらった程度で、何をちゃっかりファンになっちゃってるのあの子は。と、大和の機嫌が悪くなったのは言うまでもない。
だがまさか、ステージの上で笑顔を絶やすわけにはいかない。だから、逆にもっともっと笑ってやった。普段よりも口角を引き上げ、眼鏡の奥の瞳を強めに歪める。

他の誰に伝わらなくても、エリには確実に伝わった。この笑顔は、怒りから来るものだと。その証拠に、彼女のペンライトは現在二本とも緑色の光を灯している。


滞りなくライブは進み、残す楽曲はアンコールのみとなった。そういうわけで、最後のMCコーナー。陸は頬を紅潮させ、目の前に広がるペンライトの海に向かって愛を叫ぶ。


「今日は楽しんでくれた?オレは、すっごい楽しかった!皆んな、大好きーー!」

「りっくん、まだすげぇ元気な。んじゃ俺も叫んどこ。皆んなーー大好きーー!!」


陸と環の唐突な告白合戦に、ファン達は黄色い声で応える。そこから何故か、全員がその合戦に参加することになる。


「アイラブユーを愛しの人に伝える。それはなんと、素晴らしいことでしょう。ワタシも、皆さんのことを愛していますよ。花が光を欲するように、大地が水を求めるように、ワタシもアナタ方を」

「長いっての!オレも愛してるぜーー!お前らー!」

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