第2章 二夜目.ファンには夢を、君には愛を
「せっかく大事なもんが出来たのに、それを失くすことばっか考えて逆に距離置くとか。なんて言うか、あんま良くない言い方かもしんないけどさ…。根暗っぽいよな」
「言い方もうちょっと考えてくれる?」
しかし三月の言葉を、大和は完全に否定出来なかった。
大和はエリと過ごす内、次第に惹き込まれていく自分がいるのを自覚していた。それこそ、彼女しか見えなくなってしまうほどに。愛情が大きくなるのに比例して、同時に不安も募った。
完全に依存してから、それを取り上げられたらどうしよう。おそらくだが、仕事に支障が出るレベルで落ち込むと思う。それだけは絶対に避けたかった。IDOLiSH7のメンバーに、きっと迷惑をかけてしまうから。
そんな思いが、大和から愛の言葉を取り上げた。
彼が求めていたのは、ほどほどだったはず。ほどほど相手のことを好きになって、相手も自分をほどほどに愛してくれて。ほどほど楽しくて、ほどほどの距離感を保ったままのお付き合い。それが理想だったはずなのに。
いつしか大和の中から、そんなほどほど達は消え失せていた。
「次会ったら、今まで溜め込んでた分もまとめて言ってやれよ?」
「今さら、どんな顔して言えばいいのか分かんない…」
「あんたって、ほんとに面倒くさいよなあ」
三月は、うーんと唸った後で人差し指をぴんと立てる。
「そうだ!オレがもし中崎ちゃんのこと本気で好きだって言ったら、大和さんどう思う?」
「え、絶対に嫌だ。全部俺のだもん。お願いだから、俺から取り上げないで」
「それ、そのまま言ってやればいいよ」
「…え?それ、好きよりハードル高くない?」
明日はライブだ。エリにチケットは渡してあるので、きっと来てくれるだろう。今日のことで、彼女がキレてなければだが。
今夜一晩を使い、大和は心の準備をすることにした。明日のライブが終われば、きちんとエリと向き合おう。まずは今日のことを謝って、それから…
それから。