第2章 二夜目.ファンには夢を、君には愛を
「あんた、好きだって全然言ってやんないんだって?」
「えーー…と」
三月の口から飛び出したのは、予想外の内容だった。まさか、エリがそんなことで悩んでいたとは驚きである。今の今まで一度足りとも、大和が彼女にそういう言葉をせがまれたことなどなかったのだから。
「なんで言わないかな。オレだったら毎日だって伝えるのに」
「毎日って…!お前は小っさい八乙女楽か」
「えっ。八乙女って、やっぱそうなの?」
「いや知らんけど。だって、いかにも言ってそうじゃん。毎日違う女にさ、好きだの愛してるだのって」
「あははっ、確かにー!ってか話題逸らしてんなよ!
なぁ、大和さん。好きじゃないのに好きって言うのは問題だけどさ、好きなのに好きって言わないのも問題あるぜ?」
三月の大きな目で覗き込まれて、大和はうっとたじろいだ。やがて小さな声で、もにょもにょと何かを口にする。
「…って、言ったらさ、—— じゃん」
「え?なんて?聞こえねぇよ」
「だから!っ…好きだって言ったら、もっと好きになっちゃうでしょ」
三月は、大きな目をさらに大きくして大和を見つめた。それから長い沈黙の後、迷った挙句にこう言う。
「ふ、増えるワカメみたいに?」
「そうそう!俺が言う好き=水で、好きって気持ち=ワカメで、そりゃもう水を加えた分だけワっサワサ増え…
って!俺の気持ちをよりにもよって地味な海産物に例えるのやめて!?」
「じゃあノって来るなよ…」
三月は、大和に冷ややかな視線を送った。