第1章 一夜目.5時限目の空
—3小節目—
チョコより甘い夢先
エリは、どちらかというと寡黙なタイプであることが分かった。しかし、全く喋らないというわけではない。必要に迫られればしっかりと言葉を用いるし、冗談もたまには使うみたいだ。
だから、友達もそれなりにいる様子。だがどちらかというと、広く浅くよりは、狭く深い交友関係が好みらしい。
などという点から、彼女は少し自分に似ているかもしれないと一織は考える。
「いおりんも食う?」
「あなた、さっき私と同じ量の食事を終えたばかりですよね?なんですか、その大量のお菓子は」
「なんか、他のクラスの女子にもらったー」
「そろそろ餌付けされてるという自覚を持ちましょうか…」
「んで?いおりんも食う?」
「結構です」
一織は、ずいっと差し出されたチョコレート菓子を、環の手ごと押し返した。タケノコの形を模したそれは、すぐに環の口の中へ消える。
と、そこへ。両手いっぱいのノートを抱えたエリが、二人の側を通り掛かる。一織は知っていた。今日の日直が、彼女であることを。おそらくクラス全員分のノートを集めて、職員室に運ぶのだろう。
『提出する数学のノート、この上に載っけてくれる?』
「ない」
『ないんだ…』
「はぁ。四葉さん、また課題をやらなかったんですか」
「へへっ、まあな!」
「威張る意味が分かりません」
一織は環を嗜めながら、自分のノートを彼女が持つ山の頂上に載せた。お願いしますと声を掛けると、エリは首を縦に一度動かした。
「てか、もう一人の日直は?」
『分からない』
「ふーん。えりりん一人で働いてて偉いじゃん。チョコ食う?」
『ありがとう。でも、いま手が塞がってるから後でもら』
「あーん」
口元までチョコ菓子を近付けられたエリは、反射的に口を開ける。そして一織もまた、口を開けていた。無論、菓子を食べる為ではない。呆れからくる開口であった。