第1章 一夜目.5時限目の空
「うーん…外もそんなに面白くはないけど、でも会ったこともないオッサンが、何年にどんなホーリツ作ったとかいう話よりはマシ」
「もうちょっと取り繕う努力をしろ」
教師が、丸めた教科書で環の頭をぽこんと叩く。それとほぼ同時に、教室からはどっと笑い声が湧いた。環が大袈裟に、体罰だ体罰だと騒げば、それはさらに大きくなるのだった。
そこまでなら良かったのだが、とばっちりが一織の身を襲う。
「その様子じゃ、お前は質問しても答えられないだろうな。代わりに和泉」
「……はい」
窓の外に注意を払っていた一織だったが、教師からの問いに答えるくらいは容易い。だからこの程度なら、とばっちりという事のほどでもない。彼にとって本当の意味でのとばっちりは、また違う事柄だった。
「よし、文句なしの正解!四葉も、和泉ほどとは言わないからもうちょっと歴史に興味持ってくれー」
「へへ」
「笑って誤魔化すな」
着席した一織は、心の中で溜息を吐いた。エリが席に着いたのを、視界の端で捉えたからである。環と教師がごたごたし、一織が問い掛けに答えている間に、彼女は教室へと入って来たのである。
この日、彼は見逃してしまったのだ。エリが颯爽とグラウンドを突っ切る姿も。エリが授業の邪魔にならないよう最新の注意を払い、静かに丁寧にドアを開け閉めするところも。エリがゆっくりと席に腰を下ろす瞬間も。全部。
すぐ後ろから聞こえてくる環の大欠伸に、一織は密かに眉を顰めた。