第2章 二夜目.ファンには夢を、君には愛を
「今日は、エリちゃんに会いに来たわけよ。なんか、また顔が見たくなっちゃってさ。……はは」
『照れ笑いも隠せないのにリップサービスしてもらってありがとうございます』
「悪かったな!シャイボーイが顔出しちまって!」
違う違う。今日はこんな話をしに来たわけじゃない。そう大和は自分にセルフツッコミを入れる。
「さて問題です。今日は何の日でしょーか」
『え?今日は、2月の14日ですけど……。あっ』
「その様子じゃ、いま現在あんたにイイ人居ないと」
『ご明察です』
エリが彼氏持ちでないことを確認出来てしまった。大和は、心の中でガッツポーズを決める。
『あの、すみません。せっかく来てもらったのに私、何も用意していなくて。また会いに来てくださると分かっていれば、チョコレートのひとつでも用意しておいたんですが』
「あ、いいのいいの。今回は、俺の方で用意しました。ほい、手出して」
エリが両手を差し出すと、そこに一粒十円のチョコをコロコロと転がした。
これは、さきほど大和がコンビニで仕入れた物である。あぁなんだ安物か。と思わせておいて、後から高級チョコをプレゼントする算段である。しかし彼のそんな壮大な計画は、雲行きが怪しくなった。
『あっ…!私、これ大好きなんですよ!えぇっ何で知ってるんですか?一粒200円もする高級チョコより、こっちの方が口に馴染むんですよね。うわぁ、本当に嬉しいです!ありがとうございます!』
「……えと、そんなに喜ばれたらお兄さん…この後、どうしようかなあ」
『え?』
大和は後ろ手に隠していた小さな紙袋を、おずおずと差し出した。
「一粒200円の高級チョコで、ごめんなさい…」
その時の、エリの何とも言えない表情を、今でも大和はしっかりと覚えている。