第2章 二夜目.ファンには夢を、君には愛を
—5小節目—
チョコとビール
頭から、どうしてかエリが離れてくれなかった。何事にも一生懸命で、必死で、真面目で。そんな人間が、彼は苦手なはずだったのに。
特に頭にこびりついているのは、最後に見た悲しげな顔。初対面の女性に対し、笑って欲しいなどと思うのは自分のキャラではない。そういうのは、TRIGGERの八乙女楽や十龍之介にこそ相応しいのにと自笑した。
ふと視界に入る、チョコレートショップ。あと一週間ほどでバレンタインデーということもあり、中は女性でごった返している。
そういえば、エリが仕事をするデスクの上には、沢山のチョコレートの包み紙が置かれていた。おそらくは、普段から好んで食べているのだろう。
贈れば、喜んでくれるだろうか。笑って、くれるだろうか。
だから言って、あの女子まみれの店内に突っ込んでいくのは簡単ではない。
「……簡単ではなかったけど。買っちゃってるんだなこれが」
大和は、戦利品を眺めて苦笑した。
そして来たるはバレンタインデー当日。先日、エリと出逢った小会議室に出向いた。居ない可能性の方が高かったはずなのに、何故か大和には自信があった。今日も、エリはここにいると。
この間と違って電気は点いていたし、エリも眠っていなかった。
『あっ』
「はは、また会ったな。こんにちは」
『ふふ、今日も誰かから逃げて来たんですか?』
大和は、エリの笑顔を見てほっとした。