第2章 二夜目.ファンには夢を、君には愛を
エリが受話器を置くのと同時に、つい話しかけてしまう。
「お前さん、面白い仕事してるなあ!さっきの電話、俺の聞き間違いかと思っちゃった。某って…!あははっ!駄目だ、思い出したらまた笑いがっ」
『……そんなふうに仕事を笑われると、少しだけ悲しいです』
エリの伏せられた睫毛を見て、はっとした。大和はすぐに、自分が口にした言葉が間違いであったことに気付く。
『私が今携わっている番組はバラエティですから、ニュースや情報とは違って必要性はそこまで高くないのかもしれません。でも私は、私が関われた番組を観た人が、少しでも楽しんでくれたら嬉しい。その為なら、どんなに馬鹿げた質問だっていくらでも出来る』
そして、分かってしまった。エリが、陸や三月達、IDOLiSH7のメンバーと同じ人種であること。目の前に現れる試練から目を逸らすことなく、一生懸命に取り組む人種なのだと。
そう。自分とは、真逆のタイプの人間だと思った。
「…ごめんな。馬鹿にしたつもりは、なかったんだけど」
『あっ、こちらこそ、ごめんなさい!なんだか偉そうなことを』
「いやいや。お仕事、頑張ってな。じゃ、お茶ごちそうさん」
大和はゆっくりと立ち上がる。エリは、どうしてあんなことを言ってしまったのだろうという後悔の顔をしていた。
「そうだ。まだ、訊いてなかった」
『え?』
「お姉さんの名前。教えてよ」
彼女は、中崎エリと名乗った。
その名前を、この顔を。大和はしばらく、振り払うことが出来なくなるのである。