第2章 二夜目.ファンには夢を、君には愛を
「じゃあ、俺そろそろ…」
大和は、見知らぬADの仕事場から立ち去ろうとする。しかし、それをエリは引き留めた。
『会いたくない人が居るんですよね。良かったら、ここに隠れていても良いんですよ』
「おお、なんて優しい子なんでしょ。お兄さん泣けてきちゃう。んじゃまあそんなお言葉に甘えて、もうちょっとだけお邪魔しちゃおうかな」
大和は分かっていた。もう廊下に、会いたくない人物は居ないこと。しかし出逢ったばかりのこの風変わりなADと、もう少し会話してみたいと思ったのだ。
「俺のことは気にしないで、普通に仕事しちゃってね」
『あ、はい。あと、そこにお茶と紙コップがあるので御自由にどうぞ』
「はーい。サンキュ」
初対面なのに、どうしてか話しやすいと感じた。普段仕事で相手にしているような、キャピキャピとした女性とは少し違う。落ち着いた雰囲気で、そこまで口数も多くない。派手なメイクも、きつい香水の匂いもしない。
あぁ自分はこういうのがタイプなのかもしれないな、などという自己分析をしながら、紙コップに緑茶を注いだ。
エリはしゃっきりと目を開き、仕事に取り掛かる。テーブルの上に用意されたリスト通りに、電話をかけていくらしかった。
電話番号の入力スピードが凄まじく、彼女が普段いかに多くの電話をかけているのかが窺い知れる。どうやら、電話先は老人ホームのようだ。
エリは、携わっているテレビ局と番組名、自分の名前を丁寧に名乗った。それから早速、本題に入る。
『そちらに、御自分のことを “某” と仰る方はいらっしゃいますか?』
「っぶ!!」
大和は、口に含んだ緑茶を盛大に噴いた。