第2章 二夜目.ファンには夢を、君には愛を
それにしても、こんな場所で新聞紙に包まって爆睡するような人間は、どのようなおっさんなのだろう。
大和はもう、目の前で転がる人間をおっさんだと決め付けていた。
その時。ピピピピという、けたたましい電子音が部屋いっぱいに鳴り響いた。大和の肩が、びくっと大きく跳ねる。
新聞紙の山がガサガサと動き、中からにゅっと手が伸びた。そして近くに置いてあったスマホのアラームを切った。
大和は期待した。真冬にホームレスみたいな寝方をしているおっさんの顔が、図らずしも拝めてしまうのだと。
『……っん……!』
「………あれ?」
『え?』
二人は見つめ合い、互いに首を傾げた。
大和は、あれ?おっさん、どこ?
エリは、あれ?何故ここに人が?
という、それぞれの疑問符が部屋を埋め尽くした。先に正気を取り戻したのは、寝起きではない大和の方である。
「あっ、ごめんなさいね。ちょっと、なんていうか、会いたくない人から逃げる為にこの部屋に入っちゃって。しかも俺、さっき君のこと蹴っちゃったんだわ。どっか痛いとこない?」
『え、あー…。平気です』
ゆっくりと事態を飲み込んだらしいエリは、寝癖の付いた髪をふるふると揺らした。
大和は、ふとテーブルの上に視線を向ける。そこには、一台の電話。紙とペン。一口サイズのチョコレートの包み紙があった。彼女はどうやら、ここで仕事をしていたらしい。そして、さきほどのは仮眠で間違いないらしかった。
「仮眠中、邪魔してごめんな。っていうか、寒くないの?風邪とか引いちゃうんじゃない?」
『新聞紙、意外と暖かいんです』
「そ、そっかー…。そりゃ、おウチのない方々が、こぞって被りたがるわけだな…」
『持ち運びも楽ですからね』
変わった子だなあ。それが大和の、エリに対する第一印象であった。