第2章 二夜目.ファンには夢を、君には愛を
—4小節目—
逃げ込んだ先
約一年前。まだIDOLiSH7がデビューして間もない頃だ。当時、大和は自身が千葉志津雄の隠し子であることを、誰にも打ち明けていなかった。メンバーに知られることが、怖かった。しかし業界にいる人間はそんな事情など御構い無しで、彼を放っておいてなどくれない。
だから、常に周りに目を光らせておかなければいけなかった。向こうよりも先に自分が相手を見つけ、素早く身を隠す。そうすれば、メンバーの前で “千葉ジュニア” などと呼ばれることもないだろう。
そんなある日、彼はいつものように早々にターゲットを捉えた。相手に自分の姿を捉えられる前に、彼は適当な小部屋に逃げ込んだ。
部屋の中は真っ暗だったが、特に問題はない。大和は閉めたドアに張り付いて、相手の靴音が遠ざかるのを待った。
しかし、悲劇は起きる。男はよりにもよって、この部屋の真ん前で知り合いに出会ったらしい。そしてそのまま、談笑を始めてしまった。
「なんだよ、くそ…っ!」
大和は悪態をつき、日頃の行いが悪い自分を呪った。こうなっては仕方がないので、少しの間この部屋に留まることを決める。とりあえず電気のスイッチを探そうと、一歩目を踏み出した。
そんな大和の脚に、何かがぶつかる。それは段ボールのような固い物ではなく、簡単に壊れてしまいそうな柔らかい物でもなかった。
自分は何を蹴ってしまったのだろうと、大和は手探りで見つけ出した電気のスイッチをオンにする。
どうやら大和が足蹴にしたものは、人だったらしい。新聞紙に包まれた人が、床に転がっていたのだ。
「はは。爆睡」
思い切り蹴られて、しかも電気を煌々と点けられても、起きる気配すらない。よほど疲れているのだろう。やはりADという仕事は、よほど過酷なのだと大和は勝手に納得した。