第2章 二夜目.ファンには夢を、君には愛を
—3小節目—
あなた色
その日、午後が丸々オフだった大和は、一人街中をぶらついていた。休みは基本的に外出しないタイプであるが、この日は三月が寮に居なかったのだ。つまり、美味しい肴を用意しくれる人間が不在ということ。残念ながら、エリも今日は仕事であると聞いていた。そういった不幸が重なり、大和はこうして自ら買い出しに出て来たわけである。
「うーー、さっびぃ…。こりゃ今日は熱燗かなあ」
大和は、頭の中で熱燗を思い浮かべて暖をとる。そして、それに合うアテを考える。エイヒレか、鮭とばか。酢牡蠣、なんていうのも捨て難い。エリなら、どんなものを選ぶだろうか。
いつの間にか脳内には、お猪口を傾けるエリの姿で占領されていた。
「……はは。参っちゃうよなぁ、どーも」
いつからだろう。こうも私生活の全てが、エリで染まってしまったのは。
こんなふうにだけは、ならないでおこうと決めていたのに。
まんまと恋に落ちた現状に嘲笑し、街をいく。そんな時、見覚えのあるハイブランドチョコレートショップを通りがかった。大和は、懐かしいなと足を止める。バレンタインデー間近ということもあり、店の中は女の人でごった返していた。
かつて彼は、ここでチョコレートを買ったことがあるのだ。贈った相手は、他でもないエリ。
彼は寒空の中、懐かしい思い出に耽る。