第2章 二夜目.ファンには夢を、君には愛を
「ちょうど辛いもん食いたかったんだよ!もしかして、エリってエスパー?」
『そうそう。今日廊下ですれ違ったときに大和から、チゲ鍋が食べたいチゲ鍋が食べたいって聞こえてきたから』
「いやぁ、念じてみるもんだなあ」
冗談を言い合いながら、2人はビールで乾杯する。エリは、大和よりも美味しそうに酒を飲む人にまだ出逢ったことがない。
「ところでさ、いつ引っ越すの?」
『え?私、引っ越すの?』
「えー。前に言ったじゃん。いい加減、オートロックのあるマンションに行こうって」
『それ、私が言ったんだっけ?』
「ううん。俺です」
『だよね。はは』
「あはは」
それを大和が言ったから、じゃあ引越し決めます!という流れに本気でなると思ったのだろうか。人一倍ふーふーして、眼鏡を曇らせながら鍋を食べる男を凝視した。
「今時、オートロックもないようなマンションに女の子が一人暮らしって…お兄さん心配」
『どうして心配なの?』
「どうしてって、そりゃお前さん…。こんな可愛い子に、ストーカーの1人や2人いたって不思議じゃないでしょ?」
『あ、そういえば!』
「え、うそ。マジでなんかあった?」
『今日、玄関の前でめちゃくちゃ怪しい男に待ち伏せされてた!』
「嘘だろ!どんな男だった?!」
『帽子とマスクと、サングラスまでしてたんだよ』
「あと、もしかして…深緑のコート着てなかったか?」
『き、着てた!』
「やっぱりな!そりゃ俺だ」
『そっか。良かった』
2人はまた笑い転げる。酒のせいで笑いの沸点が低くなっているのは御愛嬌だ。
「そんな悪いことを言う子には、コレはお預けでーす」
大和が言いながら財布から取り出したのは、数日後に開催予定であるIDOLiSH7のライブチケットであった。
チラっとだけ見せ、また財布にしまわれたそれに、エリが飛びついたのは言うまでもない。