第1章 一夜目.5時限目の空
—2小節目—
優等生の授業中
先日の出来事を一織は密かに “チケットいらない事件” と命名していた。そのチケットいらない事件の直後から、彼はエリをよく観察するようになる。
洞察力の優れた一織だ。時間を掛けずとも、すぐに新たな発見を成し遂げる。それはいつくかあったが、特筆すべきはこれ。
遅刻の多さ、である。
エリは週に二回、必ず遅れてやって来た。水曜日と金曜日、決まって遅刻をするのだ。特に金曜日に至っては、5時限目の途中から授業に参加する。どうしてこんな異様なことに今まで気付かなかったと問われれば、理由は二つほどある。まずは、エリに対する一織の興味がそれほど強いものではなかったから。もう一つは、彼女の席が廊下に面した最後列に位置していたからであった。
対する一織が座るのは、窓際の前方だ。金曜日の昼下がり。彼はまた今日も、最近の習慣になった窓外の観察を始める。授業中に気を逸らすのは、彼にしては珍しい。しかしこの時間だけは度々、外の景色に目線をやった。
金曜の5時限目は、どのクラスも体育がないので運動場は使われていない。正門を潜った後、エリはいつも広い運動場の真ん中を突っ切って歩く。それが、最も効率の良い最短ルートだからだ。良い姿勢で、シャキシャキと大股で歩く。一織はそんなふうに歩く彼女の姿を見た後は、決まって得をした気分になるのだった。
「こーら!お前、また窓の外をぼーっと見てただろ!」
教師の言葉に、一織の心臓は大きく跳ねた。同時に、顔と視線を前へと戻す。冷や汗をかいたが、教師の注意は自分に向けられたものでないことにすぐ気が付いた。
「窓の外には、俺の授業よりも面白い何かがあるのか?んー?どうなんだ、四葉」