第1章 一夜目.5時限目の空
「ちょっと、呑気に笑っていないで。今の話を聞いた上で、教えてください。
あなたも…私のことが、好きでしょう?」
険しい道から逃げようとしていた彼女が言うのもなんだが、狡いと思った。こんな聞き方をされては、本音を曝け出す他ないからだ。
『…完璧じゃ、なくったっていいの。あのね、私…、私は、完璧であろうと頑張る、努力家な一織くんが好き』
アイドルである一織の、荷物になりたくなかった。夢を叶えることだけに、全力を尽くすと決めていた。
それらの決意が、軽く消し飛んでしまう。好きだと伝えた途端、こんなふうに笑う一織を見てしまったら。
「その言葉がずっと、聞きたかった」
エリは、こんなにも幸せそうに笑う彼を初めて見た。テレビでは決して見せることのない、これこそが一織の本当の笑顔なのだろう。
二人は、それがごく自然の成り行きのように身を寄せ合った。一織の鼓動は、エリが思っていたよりも随分早かった。ただそれだけが嬉しくて、背中に回した腕に力を込める。すると一織は、優しくエリの髪を撫でるのだった。
「私は、あなたと違って強欲なんですよ。ただ待っているのも、素敵な思い出だけで余生を過ごすのも、絶対にごめんです。
だからもう、お願いですから、私から離れないで」