第6章 六夜目.その御伽噺の続きを私達はまだ知らない
二人にとってなにものにも変えがたいはずの、例の御伽噺。しかし、あの絵本の続きをナギは決して語ってはくれなかった。
付き合って間もなくの頃、ナギが持っているという絵本の後半部分を見せてくれるように頼んだことがある。しかし彼は、大切なものだからノースメイアで保管しているとだけ答えて、口を噤んでしまった。
そして今も、ナギはエリのお願いに応えられずにいた。
『ナギ、ごめん。もう言わないから…。そんなに悲しそうな顔をしないで』
エリが手を伸ばすと、ナギはその手の平に頬をすり寄せる。そして小さく、謝罪の言葉を口にするのだった。
気にならないはすがない。
どうして、二人の大切な思い出を語り合ってはくれないのか。それどころか、ノースメイアの話題すらも避けるのか。触れ合う時、なぜ罪悪感に苛まれるような悲痛な表情を浮かべるのか…
聞きたいことは沢山あったが、エリはそれをしなかった。
彼女は分かっていたのだ。強く問い詰めてしまえば、ナギは自分の前から姿を消してしまうことを。
『……ナギ』
エリは、腕の中にある確かな温もりを、ぎゅっと抱き締めた。