第6章 六夜目.その御伽噺の続きを私達はまだ知らない
「こうしてアナタの瞳に映るこの日この瞬間を、どれほど長く待ち続けたことでしょう。
実のところハンサムとは仮の名で、ワタシの本当の名前は六弥ナギといいます」
『知ってます』
カフェテリアの最奥、店内でも目立たない席に腰を下ろした二人。注文した飲み物が揃ってから、ようやく自己紹介をした。
「光栄です」
『えっと、私の名前は』
「エリ」
ふいに名を呼ばれ、エリは落としていた視線を上にやった。こちらが恥ずかしくなるほどに真っ直ぐ投げられた視線。細められた目は、幸せそうにエリだけを映していた。
「アナタがワタシを知ってくれていたように、ワタシもアナタのことをずっと前から存じていますよ」
『…あ、あぁ。もしかして、陸から私のことを何か聞いてましたか?』
彼女が告げると、ナギの幸せそうな瞳はすっと閉じられた。変わらず微笑してはいるものの、どこか寂しそうに儚げだ。まるで、なにか期待を裏切られたように。
「たしかに、ワタシはリクからエリのことを聞いてはいました。しかしアナタのことを知ったのは、もっとずっと昔のことです」
ナギという男のキャラクターについて、エリもそこそこ知識がある。だから、この手の言葉も女性を喜ばせる為のサービストークと捉えた。
しかし、帽子から覗く月を思わせる金色の髪。まるで絵本を読み聞かせるような優しい声色。そして、ノースメイアで幼少の頃を過ごしたという事実が、彼女の胸をざわつかせた。