第6章 六夜目.その御伽噺の続きを私達はまだ知らない
—7小節目—
はじめまして王子様
エリはカフェテリアの前で立ち止まり、鏡を取り出してちょこちょこと前髪を直した。
やっぱり早まっただろうか。なんて、ここまで来ておいて尻込みをしたりする。
実は今日このカフェで、ハンサムと会うことになっているのだ。
エリとハンサムの距離は、ゲームを介してぐっと縮まっていた。あれだけ億劫だったボイチャも今では当たり前のように使っていたし、他の誰よりも多くの時間を共有していた。
だから、実際に会って話をしないかと誘いを受けた時も、ついつい気軽に承諾してしまったのだ。今から考えれば、大胆なことを仕出かしたものである。
ここで立ち尽くしていても仕方ない。エリは覚悟を決め、深呼吸で心臓を落ち着けた後、自動ドアの前へ移動した。
ドアが開くより少し早く、すっかり聴き馴染んだ声が彼女を呼ぶ。
「Excuse Me?アナタがLioですね?」
振り向くとそこには、茶色のハンチング帽を被りマスクで顔を隠した男が立っていた。
『えっ、あ、はい!そうです。貴方が、ハンサム…さんですか』
彼はすぐにイエスと頷き、目を細める。そしてマスクを取り、うっとりと幸せそうにエリを見つめた。
「ワタシが、ハンサムです」
彼は、本当にハンサムだった。どれくらいハンサムかというと、大人気アイドルと同程度のハンサム具合。
彼の素顔を見た途端、エリはその場で卒倒しそうになった。