第6章 六夜目.その御伽噺の続きを私達はまだ知らない
しかしながら、エリはもう夢見る少女ではない。現実はそんなに優しくないことを理解していた。ノースメイアの王子があの時の相手で、なおかつ自分のことを迎えに来たなどと、いくらなんでもそんな夢物語が現実に起こるはずがな
「どうか、ワタシだけのプリンセスになってください」
『…………え?』
「どうか、ワタシだけのプリンセスに」
『い、いやいやちょっと待っ、言葉が聞き取れなかったわけではなく!』
何の予告もなくバンジージャンプ台から突き落とされたのと同じくらいパニックになるエリを、ナギは不思議そうに見つめていた。
『そ、それはもしや、恋人になって下さい…的な?』
「分かりづらかったのなら言い直しましょう。ワタシは、アナタに交際を申し込んでいます」
落ち着き払った彼の前に座っていると、エリにもその冷静さが伝染するようだった。たとえナギが本気でもそうでなくとも、出逢ったその日に告白とは、性急にもほどがある。
『考える時間を』
「あげません。エリ、アナタがワタシの申し出を断るはずなどないからです」
『さすがに、イケメンは言うことが違いますね』
「フラれる想定をしていないのは、ワタシがイケメンだからではありませんよ?」
『ほう。じゃあその自信の根拠は?』
まだ一度も口を付けていない飲み物が、冷め始めている。エリの心臓は、熱を帯び始めていた。
「ワタシが、アナタの運命の相手だから。
Sorry… 約束をしたのに、迎えに来るのが遅くなりました」
『私の、運命の…。それに迎えって…っ!一体、どういう』
「Bud.アナタには分かっているはずですよ」
ナギはまた、うっとりと瞳を細めた。エリには、口角を僅かに上げる程度の余裕すらないというのに。
「アナタもまだ、持ってくれていますか?」
あぁ、もう。運命という言葉すら生温い。
「かつてワタシ達と共に引き裂かれ、半分となったあの絵本を」