第6章 六夜目.その御伽噺の続きを私達はまだ知らない
—4小節目—
惰性的な現実逃避
自身でも分かっていた。いくら美しい思い出といえど、所詮は子供が交わした軽い口約束。報われる未来などありはしないこと。
だからこそ前に進むべく、新しい恋愛なぞに手を出したのだ。相手はエリを大切にしてくれたし、彼女もまた人を愛する喜びを思い出した。
そう、それなりに幸せだった。別れを切り出されるまでは。
エリは、いつもの要領でパソコンを立ち上げる。起動するのは例のゲーム、IPEXである。
実は、これをエリに教えてくれたのは元恋人であった。もう一緒にプレイする人はいないのに、ついついログインしてしまう。彼女に染み付いた悲しい癖。
陸にはもう吹っ切れたと強がったものの、実のところまだ心の端に引っ掛かりを感じていたのだった。
数ゲーム、野良で回る。野良というのは、知らない人とチームを組んでプレイすることだ。このIPEXは、リアルな知り合いとグループを組んで遊ぶ人が多いが、ここ最近のエリは野良専門となっていた。このスタイルが気軽で良いと、あえてフレンドは作らないようになってしまっている。
また一戦を終えロビーに戻ると、ホーム画面に通知が入る。それは、他のプレイヤーからチームを組まないかという誘いの報せであった。
『誰だろう。前に野良でたまたま組んだ人、かな?ユーザーネームは……ハンサム?
ふふ、変な名前』
“承認” と “拒否” の二つが並ぶ。
エリは迷うことなく、拒否へとカーソルを引っ張った。