第6章 六夜目.その御伽噺の続きを私達はまだ知らない
プリンの横で鎮座していた、うさぎ型にカットされた林檎を齧ってから陸は言う。
「そういえばナギがね、エリに会いたいって」
咀嚼中のパンケーキを噴き出してしまいそうになったがなんとか堪え、乙女の尊厳は守った。
『な、なんでそんな話に!陸、ナギさんに私のことどんなふうに話したの』
「え?うーんと。IPEXが好きなこと、子供の頃はノースメイアに居たことでしょ?あとは ——」
陸が並べたのは、至って普通の事柄ばかり。一国の王子の興味を引くような、特別な内容などは含まれていなかった。
ゲーム好き、そしてノースメイアという共通点が嬉しかったのでは?というのが陸の見解だ。
彼は、沢山の光を瞳にたたえて言葉を続ける。そして、ナギに会う為にアイナナ寮へ遊びに来ないかという提案を持ち掛けた。
が、エリは首を縦には振らなかった。
『そんなキラキラした世界に、私なんかが足を踏み入れたら目が潰れちゃうよ。あんなイケメンアイドル達の目の前に立つって想像しただけで、緊張で吐きそう』
「え?でもエリは今オレの目の前いるのに、目も潰れてないし吐いてもないよ?」
『あー…。まぁ、陸は特別』
「むぅ。その特別は嬉しくない!オレだってアイドルなのにー!」
陸の機嫌を少し悪くしてしまったが、王子への謁見はなんとか回避出来たのだった。