第1章 一夜目.5時限目の空
—9小節目—
近くて遠い距離
変えることの出来るはずだった関係は、変わらないまま。それどころか二人の距離は、心なしか以前よりも開いてしまったかもしれない。その微妙な変化に気付いているのは、当の本人達だけ。周りの人間は、二人の親密さに野次馬心を動かされていた。
「ねぇねぇ!エリって、和泉と付き合ってるって本当?」
教室のドアをスライドさせようとしていた一織は、ぴたりと宙で止まる。中から聞こえてきたのは、自分とエリの名前。そして予期せぬ問い掛け。いけないとは思いつつも、彼は入室を故意に遅らせ聴覚を鋭くした。果たして、エリはこの質問にどんな言葉を返すのだろうか。
『え?ふふ、誰がそんな噂流したの?ないない、付き合ってないよ』
「そうなの?あんなに仲良さげなのに。じゃあ、告った告られたとかは?」
『まったく全然ありませんよー』
「うっそだー!あんたら絶対両想いなのに」
『…ううん。ない。ないよ』
もしいま一織の手にボールペンでも握られていたら、それは真っ二つになっていただろう。もし荷物でも持っていたら、それは地面に落下していたに違いない。
『一織くんは、アイドルだから。そんな彼の足を引っ張るようなことはしたくないと思ってる。それに、私はIDOLiSH7のことが大好きだしね』