第6章 六夜目.その御伽噺の続きを私達はまだ知らない
「ところで、リクはワタシに何か用があったのでは?」
「そうだった!ナギに訊きたいことがあったんだ。えっと、ナギは “ Ipex ” って知ってる?」
オフコースと叫んで途端に目を輝かせる私を見て、リクは一歩後ずさった。予想していたよりも、返ってきた反応が大きかったのだろう。しかしながら、一度上がったボルテージを下げることは出来かねる。
「Ipexは、いま最もホットなSPFゲームです!ワタシなどは、Ipexを存分に楽しむ為にパソコンのアップグレードを行いました!最適な環境を手に入れたワタシを前に、もはや敵はいません。ふふ…つい先日も、ワタシを取り囲んだ三人のエネミーを」
そんな調子で気が付くと十分もの間、トークをマシンガンしていた。時折、感嘆の声を零し話を聞き続けてくれるリク。非常に嬉し楽しい時間ではあるが、このままでは彼の要件に辿り着くのは朝になってしまいそうだ。
「ワタシの武勇伝はこの辺りで一度ストップですね。それより、リクの口からIpexの名前が出たことに驚きです!いつどこで、この神ゲーに興味を持ったのですか?」
「実は、オレの友達でこのゲームが好きな子がいるんだ。それでね、その友達には内緒でオレも出来るようになったら、絶対に驚くだろうなって思って!」
「なるほど、それは素晴らしいサプライズです!そこでワタシにコソ練に付き合って欲しいと、そういうわけですね?」
「うん!出来れば!
ねぇナギ。Ipex、オレも出来るようになるかな?」
「……その質問に答えるにあたり、オブラートは必要ですか?」
「え?ど、どうしようかな。うーーん…。迷うけど、やっぱりナギの率直な見解を聞かせて欲しい!」
「分かりました。
ワタシの見立てでは、リクが敵に銃弾を一発当てるまでに四年はかかると思います」
その答えを冗談だと捉えたのだろう。リクは声を上げて笑った。しかし私の顔に一切の笑みがないことに気付き、ようやく真実を悟る。
彼は、四年か…と、悲しそうに呟き肩を落とした。