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十六夜の月【アイナナ短編集】

第6章 六夜目.その御伽噺の続きを私達はまだ知らない




—1小節目—
prologue


輝く白銀にも負けないくらいの、美しい恋の物語である。

誠に想い合う、男と女。

その愛は真冬の雪をも容易く溶かすほど熱く。
そして不変のものであると二人には分かっていた。

しかし、愛に障害は付き物だ。
二人の間に立ちはだかるもの、それは

“ 身分の差 ”


女は下町の娘。男は、いずれこの国を統べる事が約束された王子であった。

国王をはじめとした王族は当然のように、あの手この手で二人の仲を引き裂こうと思案する。

しかし二人の愛は、蝋燭の灯り程度も揺らがない。


これが奥の手と、王が差し向けたのは…

古くから城に仕える、とある魔法使いであった。


その魔法使いは常闇色のローブを翻し、二人の元へと向かう。

目的は勿論、愛を終わらせる為。




「ナギ?」


自分の名を呼ぶその不安げな声で、はっとして顔を上げる。心配そうにこちらを覗き込むのは、リクであった。その様子から、どうやら名を呼ばれたのは一度や二度ではないことが分かる。


「OH!Sorry!ワタシの意識は、ワタシの意思に反して少し旅に出ていたようです」

「旅?もしかしてオレ、楽しい旅の邪魔しちゃった?」


ゆるゆると首を振る。決して、リクに気を使ったわけではない。さきほどの追懐に、楽しさなど微塵も感じていなかったのだから。

ノースメイアに伝わる、最もポピューラーな御伽噺。誰にも打ち明けた事はないが、自分はこの物語に一切の愛着がない。
これから先も一生、好きになることはないだろう。
しかし。これから先も一生、折に触れその物語を思い起こすのだろう。

そう。まるで未来永劫、解けることのない呪いのように。


「いえ。リクのおかげで、今回は前半部分だけで済みました。ワタシの旅を終わらせてくれて、感謝してます」

「よく分からないけど、ナギの役に立てて良かった!」

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