第5章 五夜目.雨
—13小節目—
我
彼女に逢いたい。想いを告げ、抱き締めたい。どうしても。
脳は熱を持ち、ただそれだけしか考えられなくなっていた。
急ぎ早くロビーを抜けようとした壮五の視界の端に、ある物が留まる。それは、マガジンラックに立て掛けられたある雑誌だ。
“ 世界中で活躍されてる、色々な人が載っているの ”
それはそれは見事に、エリの声で脳内再生される。
そしてエリは確かあの雑誌に載っている偉人達の中で、ノースメイアの王子が最も印象的だと語っていた。
壮五は、視線をラックから前に戻す。
自分はとても王子様なんて柄ではないし、何か偉業を成し遂げたことも勿論ない。そんな彼と自分を比べることすらおこがましいが、エリにはどうしたって自分の手を取って欲しい。
いや、そもそも自分と誰かを比べる必要なんてない。逢坂壮五という人間は、この世に一人なのだから。
それに気付いたとき、名前しか知らない遠い国の王子に背中を押してもらった気がした。