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十六夜の月【アイナナ短編集】

第5章 五夜目.雨




—10小節目—



天気予報をチェックするのが、壮五の日課になっていた。もちろん毎日、雨が降るようにと祈ることを忘れてはいない。
実はここのところ、晴れが続いている。もうどれくらい会えていないだろうか。
今日こそはと、気合を込めて携帯の画面をタップした。


そして、翌日。天気は生憎の日本晴れ。一体あとどれくらいすれば、エリに会えるのか。何かを切望する時間がこれほどまでに長いことを、久々に思い出した。

彼はぽっかりと空いてしまった時間を埋める為、外へ赴いた。晴れた日にここを訪れるのは、本当に久しい。一人きりのベンチはさぞ寂しいだろうが、家で過ごすより遥かにいい。


「えっ」


思わず声が一人でに飛び出した。いるわけがない人が、そこにいたから。
彼女の方も壮五に気が付いたようだ。しかし、何か様子がおかしい。こちらに向けたエリの顔色は、真っ青だった。その身に何かが起こったのは明白で、壮五は堪らず急ぎ駆け寄った。


『そ、壮五さん、どうして』

「そんなことはいい。何が、あったんだい?」


エリの顔に動揺の色が浮かぶ。震える唇を小さく開けては閉じ、開けては閉ざした。その様子に壮五は確信する。彼女の身に降りかかった問題が、自分達がひた隠しにしてきた “家” に関することであると。
彼は一人、覚悟を決める。


「これまでは話してこなかったけど実はね、僕は…。なんていうか、それなりの家柄の人間なんだ。そして、それは君も同じだということを知っている。
初めて会ったときから、気付いていたんだ。僕らは似た者同士だって」

『…あ』

「似た境遇にいるからこそ、理解出来ることがあると思う。どんな話でも驚かないよ。だから、教えてくれないかな。エリさんの身に何が起こっているのかを」

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