第5章 五夜目.雨
予報通り、空には徐々に晴れ間が広がった。二人きりだった公園には、いつの間にか子供達の姿が増え始める。楽しそうに遊ぶ彼らを、二人はベンチから眺めていた。すると突如、エリ達の耳に高い鳴き声が飛び込んだ。
そちらに目を向けて様子を窺ってみる。どうやら、遊具の順番を待ち切れない子供が母親を困らせている模様。その子はまだ湿った地面の上に転がって、両手両足を大きくバタつかせて泣き叫ぶ。
壮五は、ふっと目元を緩ませた。
「あの子は、すごいな…」
その呟きはとても小さくて、消え入ってしまいそうだった。エリは、決して取り零さないようにそれをしっかりと拾い上げる。
『そうね。自分の気持ちをあんなふうに、声を大にして誰かに伝えられる。それは、誰でもが出来ることじゃないわよね』
「!!」
壮五は、驚きの表情をエリに向けた。
『壮五さん?』
「ごめん…少し、驚いてしまって。まさか、理解してもらえると思ってなかった」
彼の語尾は、どんどん弱々しくなる。そして、苦しげな視線を遠くに投げて続けた。
「こんなふうに、もしもの話をしても…何も変わらないって分かっているけど。もしも、あの時…僕もあの子のように、自分の思いを大きな声で伝えられていたら」
失わずに、済んだのかな。
壮五は、エリがぎりぎり拾える声量でそう落とすように言った。
エリには、彼がどんな後悔を抱えているのかは分からない。どんな傷を負い、どれくらいの数の抜けない棘が彼を苦しめているか知らない。
しかし。自分達が似た境遇で、似たような弱い部分を持っていることだけは分かった。
初めて見ることが出来た、壮五の心の柔らかい場所。何をして何を言ってあげるのが正解かは分からないが、エリは小さく震える壮五の手を強く握った。