第5章 五夜目.雨
『父から読むように言われたのだけど、読んでみると面白くて。世界中で活躍されてる、色々な人が載っているの』
エリは嬉々として語った。彼女が楽しそうにしていると、壮五の気持ちも不思議と弾む。
「へぇ、勉強になりそうだし僕も読んでみようかな。エリさんは、どんな人が気になった?」
『うーん。さっき読んだばかりなんだけど、ナギ・ヴァルハルト・フォン・ノースメイア殿下かしら。その方はノースメイアの第二王子で』
ノースメイアは立憲君主制で、王室が権力を握っているようなイメージであった。それを、民主主義へと変える為に社会福祉を整えるなどして国民の為に尽力している人物らしい。
エリは、そう一息に語り感嘆のため息を漏らす。
「とても立派な方なんだね」
『国際社会にも愛されてる上、社交的で優秀で語学に長けていて国民からの信頼も厚いのだって。
顔写真はまだあまり出回っていないのが残念よね。壮五さんも、王子のお顔をぜひ拝見してみたいと思うでしょう?』
「…そう、だね」
壮五は答える。しかしながら、笑顔が引き攣っていないかが気になった。顔も見たことのない王子様に密かな嫉妬心を抱いたことなど、エリには絶対知られたくなかったから。
この日も幸福な時間を共有した後、壮五は家路へと着く。その道すがらで書店に寄り、さきほどの雑誌と同じ物を一冊購入したのだった。